信託のお話し

~家族信託のお話し~

今回は近年注目されている民事信託のお話です。民事信託は家族信託とも呼ばれ、比較的新しい法律であるため、まだまだ対応していない専門家も多い分野です。

信託は、今までの民法ではできなかったことを可能にする画期的な手法です。

以下、日本一分かり易く信託制度を説明します。

 

1.信託誕生の背景

信託誕生の歴史は赤十字軍の遠征にさかのぼります。農園を営んでいた夫が戦争に行く際に、残された家族のことを案じ親友に農園を任かせ、その利益を妻と子供に渡してほしいと頼んだことが始まりと言われております。

2.信託制度の概要

信託は、「委託者」(財産の管理をお願いする人)が「受託者」(財産を管理してあげる人)に財産の管理をお願いして、「受益者」(利益を受ける人)にその利益を渡すという契約です。

*赤十字軍の話で当てはめると次のようになります。

夫→   「委託者」

親友→  「受託者」

妻と子供→「受益者」

ただし、実務上は多くの場合「委託者」=「受益者」となります。受益者を委託者以外に設定すると、みなし贈与課税の問題が生じるためです。

3.信託の具体例

以下、事例を用いて信託の具体的な例を説明します。

【事例】

八王子市に住む茂さんは現在80才。妻のチエさんと二人暮らしです。年金と所有しているアパートの家賃収入があり、楽しく老後を過ごしています。

子供は長男の武と二男の健太の二人で、それぞれ独立しています。

アパートが古くなってきたので、今後、修繕をしたり、修繕費用のために銀行から借り入れをしなければなりません。アパートの管理は不動産会社に任せているのですが、それでもオーナーがやらなければならないことは多くあります。

このところ高齢のせいか、アパートを管理することが難しくなってきました。そこで、茂さんは長男の武さんにアパートの管理をすべて任せたいと考えており、武さんも承諾しています。

ところが、不動産会社でも銀行でも、所有者ではない武さんが代理できることには限界がある。重要な手続きには茂さんのハンコが必要ですと言われました。これでは、茂さんは安心して武さんに任せることはできません。

4.信託による解決

この事例における課題はすべて信託によって解決できます。

不動産会社も銀行も、意地悪を言っている訳ではありません。彼らの言っていることは「不動産の処分は所有者しかできない。武さんが手続きした後に茂さんが聞いていない、勝手なことをするな、と言ったらすべてひっくり返ってしまう。そのため登記上の所有者を連れてきてください。登記上の所有者の意思を確認したいです。」ということなのです。

法律に照らすと、不動産会社や銀行の言い分は正しいことになります。

そこで信託の出番です。

信託は登記名義を、茂さんから武さんに変更できます。 名義が武さんになれば、不動産会社も銀行も、武さんを所有者として扱ってくれます。また、武さんのハンコだけで不動産の処分ができ、茂さんの関与は一切不要となります。

5,信託のメリット

信託のメリットは次のとおりです。

① 贈与税等の税金がかからない

武さんはあくまで財産を管理する権限を与えられたのみで、財産を譲り受けた訳ではありません。そのため贈与税や不動産取得税などの不動産を取得する際に生じる税金はかかりません。

② 所有者の判断能力が低下しても財産の処分が可能

茂さんの判断能力が低下すると不動産は売却できなくなりますが、信託後は、武さんが登記上の所有者であるため売却等の処分ができます。

なお、売却代金は武さんではなく茂さんのものになります。

ちなみに、後見制度では原則として不動産、株式などを処分するためには、売却しなければ生活できないなどの事情が必要になりますが、信託にはそのような制限はなく、信託契約に定めれば自

由に処分できます。

③ 遺言の代わりになる

ア)財産の承継先を何代にも亘り定めることができる。

信託は民法の壁を超えることができます。そして信託には遺言の代わりになる機能も備わってます(遺言代用機能)。

民法の世界では財産の承継先は、1回しか定められません。

例)自分が亡くなったら先祖代々受け継がれた自宅は長男に相続させる。

長男は相続後、自分の財産になるんですから自宅を自由に処分できます。

これに対し、信託では次のように定められます。

例)自分が亡くなったら自宅は長男に、長男死亡後は長男の妻に、長男の妻死亡後は、次男の子供に・・・。

このように何代先までも承継先を定めることができます。途中で親族以外の友人を挟むことだって可能です。

イ)遺産分割協議が不要になる。

遺言の代わりになるため、相続開始後、遺産分割協議をする必要がありません。信託契約に定めたとおり財産が承継されます。

④ 管理する財産を選別できる。

後見制度では後見人はすべての財産を管理しますが、信託では管理してもらう財産を自由に選べます。

6.信託契約手続きの流れ

① 文案作成

② 公証役場で公正証書作成

③ 不動産の名義を受託者に変更

④ 受託者名義の特殊な口座を開設し預金を管理

*すべて司法書士が担当できます。

7.まとめ

以上のように、信託は今までの民法ではできなかったことを可能にする手法です。特に次のような課題を抱える方には非常に有用です。

① アパートなどの管理を次世代に任せたい。

② 父の判断能力が低下しているが、今後父名義の不動産の処分を検討していて、円滑に処分できるように備えておきたい

③ 財産を子供のいない長男に承継させたいが、その後に妻の家系に財産が承継されることには抵抗がある。

 

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