遺言書のお話し
~遺言書のお話し~
私はこれまで司法書士として、数多くの遺言書を作成してきました。
みなさんは「遺言書」と聞くとどんなイメージがありますか。
「ドラマの中で実子ではなく愛人に遺産を遺す遺言書が発見され、殺人事件が起きる」
「遺書というイメージがある」など、様々だと思います。
今回は、遺言書についてお話していきたいと思います。なお、このブログは専門家ではなく一般の方を対象に書いておりますので、その視点から説明いたします。
ちなみに法律用語では遺言書を「ゆいごんしょ」ではなく「いごんしょ」と呼びます。
遺言書とは
遺言書は、「自分が亡くなった後に遺産の承継先を決めておける効力がある書面」です。
「自宅は妻に、○〇銀行の預金は長男に、〇〇の株式は次男に相続させる」といったような内容になります。
相続が開始した場合、遺産の帰属先の決定は次のとおりとなります。
①遺言書がない場合
相続人全員で話合いをして決定する(この話し合いを遺産分割協議といいます)。
私はあの土地が欲しい、僕は預貯金が欲しい、というように話し合います。当然、相続人全員の話し合いがまとまらなければ、遺産の帰属先が決まりません。いくら話し合いをしてもまとまらない場合は、裁判所に申し立てて調停や裁判によって解決を図ることもあります。俗に言う「争続」状態です。
②遺言書がある場合
遺言書に従い、遺産の帰属先が決まります。遺産を承継する相続人は他の相続人と協議をする必要がありません。そのため他の相続人からハンコを貰う必要もありません。
遺言書を遺した方が良いケース
次のようなケースは遺言書を作成しておくとよいと思われます。
① 遺産分割協議が円滑にできない可能性のあるケース
例)・相続人間の関係が良好ではない
・遺産の中に価値の高い不動産があり、相続人間で均等に遺産を分けることが難しい
・判断能力が低下されている相続人がいる
・ハンディキャップを抱えた相続人など、特定の相続人に遺産を多く相続させたい
② お子様がいらっしゃらない夫婦のケース
ご主人様が亡くなると相続人は奥様とご主人様の兄弟姉妹となります。その場合、法律が定める相続分は奥様が75%、兄弟姉妹が25パーセントとなります。
*ご主人様の両親が亡くなっている場合です。
*ご主人様の兄弟姉妹がすでに亡くなっていても、その兄弟姉妹にお子様がいればお子様が代わりに相続人になります。
そうなると、奥様とご主人様の兄弟姉妹間で遺産分割協議をして遺産の承継先を決めなければなりません。
ご主人様の財産は夫婦で築いたものなのに、なぜ兄弟姉妹に相続分があるのかと思われるでしょうが、これは昔の家制度の名残です。ご主人の財産がすべて配偶者に渡らず、その家の者にも承継されるようにとの考えで民法に規定されました。個人的には家制度の意識が薄れた現代には沿わない条文だと思っています。
ご主人様の自宅や預貯金をすべて自分が相続するにはご主人様の兄弟姉妹(もしくはその甥姪)に譲ってもらうようお願いしなければならないのです。承諾してもらえた場合は、その兄弟姉妹全員の印鑑証明書を用意してもらい、遺産分割協議書等に署名捺印を頂くことになります。このやり取りが奥様にとってはストレスになることが多いです。遺産を譲ってもらうのに、そのようなお手間をかけるのは申し訳ない気持ちが生じる方も多くいらっしゃいます。
さらに、もし兄弟が自己の相続分である25%を欲しいと言ってきた場合、その主張は法律上正当なものですので、原則としては応じる必要があります。
しかし、ご主人様が遺産をすべて妻に相続させるという遺言書を作成していれば、兄弟姉妹の関与なく遺産をすべて相続することができます。
したがって、お子様のいらっしゃらない夫婦は遺言書を作成した方がよいのです。
③ 相続人以外に遺産をあげたいと考えている
④ 遺産が多岐にわたり、相続手続きを専門家に任せたい
遺言は自己の財産をどのように次世代に承継させるかを定められるものです。相続人間で揉めないよう、相続手続きが円滑に進むよう遺言を作成するメリットは大きいです。
ちなみに冒頭のイメージのお話の中で、遺産を取得するため他の相続人を殺害もしくは殺害しようとした場合、その者は遺産を承継することができません(民法891条)。
また、「遺書」と「遺言書」は全く別のものです。日本語の響きが似ているため混同してしまうかもしれません。私は、この「遺書」と「遺言書」が似ていることが遺言書の作成件数が伸びない一因だと考えてます。お子さんがお父さんに「遺言書」を書いてよと頼んだところ、お父さんが「オレに遺書を書けというのか」と激怒したなんて話もあります。
私としては「遺言書」という名称を改め、たとえば「遺産承継指示書」などと呼称を改めれば遺言書作成件数は増えるのではないかと思います。「遺産承継指示書」なら父に書くようお願いするときも頼みやすいですよね。
遺言書には自筆遺言証書と公正証書遺言証書があります。そのお話は、別の機会にしたいと思います。